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韓国の銀行は、産業政策の一環として安易に信用を供与していた。
政府は特定産業の振興策を決定し、財閥は取り残されるのを恐れてそれに殺到した。
これが利益を度外視した、がむしゃらな業務拡大につながった。
この点についていうと、韓国はかっての日本を意識的に模していたのだが、はるかに精綴なモデルの粗雑な模であることがやがて明らかになった。
すでに述べたように、日本は民主的諸制度の恩恵に浴していたのに対し、韓国は戦後長らく軍事独裁制権に支配されていた。
韓国には、日本のいわゆる根回しという伝統も、民主主義の特徴であるチェック・アンド・バランスも存在していなかったのだ。
不良債権が累積しはじめたとき、韓国の銀行は海外からさらに多くの資金を借り入れ、それをインドネシア、ロシア、ウクライナ、ブラジルといった国々の高利回り・高リスク商品に投資することによって苦境から脱しようとした。
これが韓国の危機の重要な要因だった。
だからといって日本の銀行がこのところ韓国よりずっとましだったというわけではない。
日本の混迷は、一九八七年のニューョーク株式市場の暴落にさかのぼる。
日本の金融システムは、大蔵省(M・F)によって厳しく管理されていた。
大蔵官僚は、フランスの財務検査官に匹敵する知的エリート集団だった。
彼らは相互作用性について、私がこれまでに出会ったどの集団よりも深く理解していた。
また、日本は世界に流動性を供給することによって、その工業力を金融面における支配力に転換することができる、という壮大な構想を抱いていた。
一九八七年の暴落の後、私は大蔵省のある役人からこの構想を聞かされたことを憶えている。
残念ながら、彼らは、相互作用性のある重要な側面、すなわち意図せざる結果を考慮に入れていなかった。
大蔵省の決定は、世界が暴落の影響を克服する手助けはしたものの、日本の金融機関が海外で巨額の損失を抱える結果をもたらし、国内では、一九九一年に頂点に達する金融バブルを生み出した。
大蔵省は、金融機関に対する厳しい管理により、暴落を起こすことなくバブルをしぼませるのに成功したが、このような離れわざが達成されたのは、史上初めてだった。
しかし、金融機関のバランスシートには、未消化のまま腐ってゆく大量の不良資産が残されることになった。
国民の血税を銀行救済に投入できるようになったのは、のっぴきならない事態に立ち至ってからのことだった。
そうなってからでさえ、日本の慣習では大蔵省の高官は辞任すべきとされ、彼らも結局は辞任した。
大蔵省が公的資金の投入という考えに最後まで抵抗したのも無理もない。
アジア危機が勃発したとき、日本は財政赤字削減策に取り組んでいた。
これはまさしく政策的誤りであり、アジア危機はまさに最悪のタイミングで起こった。
タイ、インドネシア、韓国に多額のエクスポージャー(リスクをとつている投融資額)があった日本の銀行は、バランスシートの縮小にとりかかり、流動性の供給過剰の最中に信用収縮が起きる事態になった。
アジア危機や一部国内企業の倒産に恐れをなした消費者は貯蓄性向を高め、低金利が海外への資本移転を促進した。
円相場は下落し、経済は後退局面に突入した。
政府は結局は、減税と銀行の資本強化を目的とする公的資金投入に踏み切ったものの、その規模は小さすぎ、時期も遅すぎた。
世界第一の経済大国にして他のアジア諸国の重要な貿易相手国である日本の景気後退は、他のアジア諸国の景気低迷の深刻さを一段と悪化させた。
アジア型経済開発モデルには多くの欠陥が見てとれる。
銀行システムおよび企業所有の構造的欠陥、産業界と政治との癒着、透明性の欠如、政治的自由の欠如などだ。
これらの欠陥は、危機に見舞われた国々の多くが抱えていたものの、すべての国に共通する欠陥はひとつとしてなかった。
香港はほとんどの欠陥を免れていたし、日本と台湾は政治的自由を誼歌している。
大企業の同族経営は日本ではみられない現象だし、シンガポールの銀行システムは実にしっかりしている。
しかも、アジア型モデルそのものは、経済開発戦略として見事に成功しており、産業界で広く賞賛されていた。
アジア型モデルは、生活水準の劇的な向上をもたらし、これらの国々の国民一人あたりの所得の伸びは、長期にわたって年平均五・五%を記録してきた。
これは事実上、あらゆる新興市場経済を上まわるペースである。
シンガポールのリー・クアンユー、インドネシアのS、マレーシアのマハティールらのアジアの指導者たちは、危機が進展していた最中でさえ、アジア的価値は西欧的価値より優れていると誇らしげに宣言していた。
彼らは、国連の世界人権宣言に対する異議申し立てまでした。
リー・クァンューは西欧の民主主義を退廃とみなし、マハティールは植民地主義の伝統に憤り、Sは縁者ぴいきの美徳を誉めたたえた。
東南アジア諸国連合(ASEAN)は、ミャンマーの抑圧的体制を政治的にも人道的にも容認できないとする西欧民主主義諸国に真っ向から挑戦して、一九九七年六月、ミャンマーのASEAN加盟を承認した。
このような見事な経済開発モデルが、いったいなぜ、これほど急激にこれほど大変な事態に陥ったのだろう。
その説明は、グローバル資本主義システムの欠陥を考慮に入れないかぎり不可能だ。
アジア危機がアジアだけにとどまらず、ロシアや南アフリカ、ブラジルをも巻き込んで、結局はすべての新興市場に波及しそうだという事実は、安定を脅かす主な要因が、国際金融システム自体に内在しているという主張を裏づける。
国際金融システムについて検討する際には、直接の投資家、ポートフォリオ・インベスター(資産運用投資家)、銀行、IMFや各国中央銀行のような金融当局の四者を区別しなければならない。
直接の投資家は、銀行の顧客となる場合を除けば、安定を脅かす役割は演じなかった。
ポートフオリオ・インベスターの場合は、他人の資金を運用する機関投資家、レバレッジを使うヘッジファンド、個人投資家に分けることができよう。
前章で述べたように、機関投資家はパフォーマンス(運用成績)を他の機関投資家と比較して相対的に判断するため、トレンドに追随する行動をとる。
彼らはさまざまな国の市場に資産を配分しており、ひとつの市場の価値が上がると、その市場への配分を増やさなければならない。
そうしないとアンダーウエート(組み入れ比率が他と比べて低すぎること)になるからだ。
逆の場合もまた同様だ。
そのうえ、ミューチュアル・ファンド(投資信託)は、運用成績がよければ投資家を引き寄せ、損失が発生すると投資家を失う。
パニックの発生に関しては、ミューチュァル・ファンドは、それを後押しする役割はなにも果たさなかった。
せいぜいが、それに先行するブーム(暴騰)のときに長居しすぎたくらいのことだ。
が、バスト(暴落)を一層長引かせる上では重要な役割を演じている。
投資家は新興市場ファンドから資金を引き上げており、そのためミューチュァル・ファンドは投げ売りせざるをえなくなっている。
ヘッジファンドのマネジャーをはじめ、借金で投機買いをしている人たちも、同様の役割を演じている。
彼らは勝ちが続いている間は賭け金を増やせるが、負けはじめると、借金を減らすため投げ売りせざるをえない。
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